浦和地方裁判所 平成3年(行ウ)6号 判決 1993年2月01日
原告
彌永健一 (ほか二三名)
右原告ら訴訟代理人弁護士
大口昭彦
被告
嵐山町長 関根昭二
右訴訟代理人弁護士
関口幸男
被告
株式会社コリンンズカントリークラブ
右代表者代表取締役
下山田裕
右訴訟代理人弁護士
池澤幸一
理由
一 嵐山町が埼玉県に包括される普通地方公共団体であり、原告らがその住民であること、被告会社がゴルフ場経営等を営業目的とする会社であって、埼玉県比企郡嵐山町及び同小川町にまたがる一三七万一三〇〇平方メートルに及ぶ地域に本件ゴルフ場を開設することを計画していることは当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、被告町長は嵐山町の代表者として、被告会社との間で本件各協定を締結したこと、本件町道は国道二五四号線から嵐山町・遠山地区に至る延長約一七四〇メートル、幅員約五・五メートルの道路であるところ、本件各協定は、嵐山町において本件町道の幅員を一〇ないし一一メートルに拡幅して舗装する事業(本件道路改良事業)を施行し、被告会社においてこれに要する費用を負担することを主な内容とする取決めであることが認められる。
二 原告らの本訴請求は、被告町長及び被告会社に対し(1)本件各協定が無効であること及び(2)嵐山町が被告会社に対し本件各協定に基づく何らの法律上の義務を負担していないことの各確認を、被告町長に対し(3)本件道路改良事業を施行すること、(4)町職員をしてこれに関する事務に従事させること、(5)時間外にこれに従事した職員に対し賃金を支給すること、(6)これにつき予算措置を講ずること及び(7)平成四年度予算のうちこれに関する部分を執行することの各禁止を、それぞれ求めるものであるところ、地方自治法第二四二条の二に定める住民訴訟は普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法第二四二条第一項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実が最終的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところから、これを防止するため、地方自治の本旨に基づく住民参加の一環として、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものであって(最高裁昭和五三年三月三〇日第一小法廷判決・民集第三二巻第二号四八五頁)、地方公共団体の行政全般にわたっての非違を防止し是正するための制度ではない。したがって、この訴訟の対象となるのは地方公共団体の執行機関又は職員による財務会計上の行為(怠る事実を含む、以下同じ)に限られ、たとえ、右執行機関等の行為が違法なものであっても、これが財務会計以外の、一般行政上の事項に係るものであるときは、この訴訟の対象とすることはできないというべきである。そして、ここに財務会計上の行為とは、地方公共団体の公金又は財産の財産的価値の維持、保全を直接の目的とし、その行為自体によって直接地方公共団体に対し損害を与え、又は与える客観的可能性を有するものをいうと解するのが相当であるところ、本件各協定及びこれに基づく本件道路改良事業は、本件町道の拡幅、舗装等の工事の施行を目的としたものであって、嵐山町の公金又は財産の財産的価値の維持、保全を直接の目的とするものではなく、これ自体が直接に嵐山町に対し損害を与え、又は与える客観的可能性を有するものではないことは明らかである。したがって、原告らの前記(1)ないし(4)、(6)の各請求は前述した財務会計行為には該当せず、原告らの本件訴えのうち右各請求に関する部分は元来住民訴訟の対象とはなり得ない事項を対象とするものであるから不適法というほかはない。
一方、原告らの前記(5)、(7)の各請求の対象となっている被告町長の行為はいずれも公金の支出を目的とするものであるから前述した財務会計行為に該当することは明らかである。しかしながら、公金の支出を目的とする行為を差し止めるためには、その公金については支出の時期、相手方及び金額等の点について他の公金支出と明確に区分できる程度に特定されていることを要すると解されるところ、原告らの右各請求においては、単に支出の費目が概括的な表現をもって表示されているだけであって、差止めの対象とする公金支出が具体的にどの公金支出を指すのかが判然と識別できる程度に特定されているわけではない。特に、成立に争いのない甲第二九号証によれば、嵐山町における平成四年度の予算書においては、本件道路改良事業に関する予算は、他の町道改良工事費とともに、一括してその「工事請負費」が計上されているだけであって、予算書の記載上では本件道路改良事業に係る工事請負費さえ明示されていないことが明らかである。そうであるとすると、原告らが右各請求において差止めの対象としている公金支出は、いまだこれを差止めの対象とするに足りるだけの特定性を具備しているとはいえず、原告らの本件訴えのうち右各請求に係る部分はこの点において不適法というほかはない。
三 よって、原告らの本件訴えはいずれも不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 小林敬子 佐久間健吉)